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深川吟行

                                        六月二十日
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第十二回の関口芭蕉庵に続いて、再び芭蕉を訪ねることにした。俳人にとっては深川は一度は訪れなければならない聖地である。ここに芭蕉は庵を結び、三十一歳(一六七四)から五十一歳(一六九四)で亡くなるまで住んだ。三回ほど庵は建て替えられたが、その間に俳諧が完成された。
今回は芭蕉庵界隈を巡ったが、現代の深川に江戸の面影はあまり見ることができない。深川の町よりも清澄庭園の方へ気持ちが傾いてしまった。ともかくも地下鉄の森下駅で待ち合わせて、行きやすい道順で巡る。朝は怪しかったお天気も次第によくなってきていた。

まずは要津寺を訪れたが、住宅街の分かりにくい場所にあり、少し探し廻る。入口のすぐ右手に雪中庵関係の石碑群が並んでいる。天明期に雪中庵三世、大島蓼太が、この寺の門前に芭蕉庵を再興した。

嵐雪の寺の空なる花石榴    長嶺千晶
玄関に目高の泳ぐ鉢のあり   上田禎子

深川吟行_a0090198_9354183.jpg要津寺から十五分ほど歩いて芭蕉記念館へ。深川は平らなところとつくづく思った。自転車が家々の前に置かれている。坂の多い街に住んでいるとこんなところが珍しい。道々さまざまな草花が植えられ、5,6寸にも伸びた稲がそよいでいるプランターがいくつも並べられ、さながらミニ植田だ。
江東区芭蕉記念館は隅田川からその「笠」の屋根を見ることができる。館には芭蕉の短冊、書簡、蕪村や杉風が描いた芭蕉の像などが展示され、また、当時の歩くときに身に付けていた、衣服、笠、脚絆、手甲なども見本としてあり、当時の旅の様子を偲ぶこともできる。蛸壺も置いてある。

夏帽子ぞろぞろ芭蕉記念館   山田紗也
青芭蕉記念館とは暗きもの  岩淵喜代子
冷房を知らぬ芭蕉の茶人帽   芹沢 芹
蛸壺で人と逢いきし昼寝覚    上田禎子

記念館を出て分館である上記の写真の芭蕉庵史跡展望庭園へ。清州橋から新大橋まで眺められる。庭園の小さな池に金魚がいて、日差しをさけ暗い穴に潜み、人声に一匹でてきたら次々にでてきて八匹くらい。また、すぐに隠れてしまふ。たまに出てくる。しばらくみんな覗き込んでいた。

江東は橋多き町心太       辻田 明
端坐する翁の像や夏燕     望月 遥
橋一つ二つと数へ夏の雲    芹沢 芹
炎帝に仕へ航跡真白なる    長嶺千晶

展望庭園の石段を降りると、その前の家に木賊があおあおと横一列に並んでいた。たしか季語は冬でなかったかなとみんなで言い合う。そばに小さな正木稲荷神社があり、賽銭箱の前に江戸名所図会が飾られていた。それからすぐに芭蕉庵跡といわれている芭蕉稲荷神社がり、三坪ほどで狭い。「古池や」の句やこの庵の由来の説明書きがある。その中に箱庭があり、年配の人が説明する。

三十年経し箱庭に坐りこむ   松浦 健
箱庭の中の日月水の音     芹沢 芹
鴨足草芭蕉稲荷の石蛙     望月 遥
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萬年橋のたもとに大きな欅が緑陰を作っている。もう、この頃は日差しが強くなり暑い。そういえば、今日は夏至と思いだす。

満潮の紫陽花色の小名木川  岩淵喜代子 
芭蕉が禅を学んだ仏頂和尚の寄寓していた臨川寺へ。入口の左手には「芭蕉墨直しの碑」「芭蕉由緒の碑」「玄武仏碑」などあり。いづれも復元されたものである。深川は関東大震災、東京大空襲などで多くのものが失われた。ちょうどお昼時となり、句会場所の清澄庭園に行く。句会までばらばらになり池を眺めたりして昼食をとる。

紫陽花の奥に答のあるごとし   松浦 健 
蛇眠る人はこの世を過ぎゆくも  松浦 健
手を伸べて亀と遊べる黒日傘   長嶺千晶
青鷺の喉に揺れゐる水かげろふ 武井伸子
梅雨蝶の水の面より湧き出づる  武井伸子
四阿は風の交はる夏燕      辻田 明
一瞬にさざ波光る通し鴨     辻田 明
菖蒲田の畦をくづせる水の嵩   望月 遥
水鶏笛悼みの音を秘めゐたり   望月 遥
飛石の少し濡れをり花くちなし  山田紗也
青鷺を眺む男の耳飾り      上田禎子
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涼亭で一時から句会である。人数の割には広々とそして本当に涼風が通る。

釣殿の水陽炎に酔ふごとし    松浦 健
背水の陣のごとくに泉殿    岩淵喜代子
釣殿に極楽よりの風きたる    芹沢 芹
水かげろふ軒に宿して泉殿    武井伸子
釣殿にぐるりと青き風のあり   山田紗也
涼亭のガラス障子の透きとおり  上田禎子
芥さへ波のきらめき泉殿     長嶺千晶
三方を水寄せてくる夏座敷    武井伸子
こころとは体の何処に水羊羹   辻田 明

まだまだ見るところがあったのだが、またの機会になった。 
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                         文・写真上田禎子

by basyou-ninin | 2009-06-20 08:55 | 俳句
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