田遊び吟行

                     田遊び吟行       2009.2.11

2月11日、板橋区の徳丸北野神社に出かけた。
毎年、同日に行われる北野神社の田遊びは、五穀豊穣、子孫繁栄を祈願する行事。
国の重要無形文化財に指定されている。新年の季語だ。
同社に伝わる縁起『武蔵国豊嶋郡徳丸郷天神宮紀』によると、995年に、京都の北野神社から天満宮を勧請した際に、その奉祝行事として「田阿曽美之祭(たあそびのまつり)」を行ったことが始まりと伝えられている。
神社本殿前に「もがり」と呼ばれる聖域を設け、中央に置かれた太鼓の皮を田んぼにみたてる。一年間の稲作作業を物真似の所作で演じ、今年の豊作を予祝し、子孫繁栄を願う。
 
開始時間の午後6時よりも早めに神社に到着。
境内の紅梅が満開だった。
別殿をのぞいてみると、田遊びに使う餅で作った鍬や小道具などが用意されていた。
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日が暮れるにつれて、舞台となる「もがり」が裸電球の灯りに浮き上がる。
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拝殿で行われていた祭典式がすむと、もがりには、田遊びを主導する大稲本、補佐役の小稲本、それに鍬取りが次々と上ってくる。十数人がもがりの上に勢ぞろい。
もがり下には演者の履物がびっしりと。
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静かにゆるやかに唱え言葉と所作がはじまる。
 よう、よなんぞうどの、よう
 町々をかぞえ候、かぞえ候、
 東の方に 一万町 一万町
 南の方に 一万町 一万町
と東西南北に中の町を加えて、五万町の田んぼが広がっている様を歌い上げる。
 
唱導の始め静かに春灯              芹沢 芹
かがり火の爆ぜて田遊び始まりぬ       芹沢 芹
田遊びのもがりの注連の少し揺れ       上田禎子
田遊びに聴く遠き世の節回し           上田禎子
夜焚火に口承の唄つづきをり           四宮暁子
田遊びや注連をゆらして神来たる        武井伸子
田遊びややる気なさげな人もおり        上河内岳夫
田遊びに江戸の時間の流れこみ        上河内岳夫

境内で焚かれているドラム缶の篝火が、炎を夜空へ舞い上げる。
この火はどんど火でもある。
境内には二本の大欅がたっていて、もがりを見下ろしている。

田遊びの山場となりて火を囃す         青木華子
田遊びを見下ろす欅大樹あり           大河内岳夫
どんど火にあほられてゐる夜の大樹      武井伸子
田遊びの闇焼くための火を造り         岩淵喜代子
田遊びや餅でつくりし鍬負ひて          岩淵喜代子
田遊びのもがりの後ろ火屑とぶ         上田禎子

もがりでは、餅で作った鍬を担いで、田んぼの土をおこし、また田をならす所作を行う。
そのとき舞台上の田んぼは、中央にでんと据えられた太鼓である。
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牛の面をつけた牛役も登場。
大稲本と小稲本にひかれて田をならす所作を行う。
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ゆったりとした調子の歌が途絶えることなく続く。歌いながら、種がまかれる。
もがりを照らす照明に、蒔かれた種がきらきらと零れ落ちる。

田遊びを囲いて闇のきりもなし          岩淵喜代子
天地に田遊びの闇生まれそむ          岩淵喜代子
田の神を称ふ黒足袋床うちて          芹沢 芹
東京に残す田遊びささら鳴る           芹沢 芹
田遊びの扇子ふる手のごつごつと       上田禎子
牛役も着膨れもみな民と民            四宮暁子
着ぶくれの伸ばさるる手に酒わたる       四宮暁子
光りつつ田遊びの種飛びきたる         武井伸子
田遊びや闇に天地の潤みたる          武井伸子
田遊びの夜空に実る稲穂かな          武井伸子
田遊びや振舞い酒の舌に滲み         大河内岳夫

中休みには振舞い酒も出て、馥郁とした酒の香がもがりの周辺に漂った。
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途中、冷たい小雨が降ってきたが、いつの間にかそれも止んでいる。
舞台では、ふたたび田を起こしたのち、早乙女役の男児を太鼓の上に乗せ、夜空へ高く放り投げる。
稲の生育と子供の成長を祈願する所作である。
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田遊びや男の子を高く差し上げて       岩淵喜代子
五月女の頬つるつるに出番待つ        上田禎子
放り上げられし子どもの春たしか        四宮暁子

松明に導かれつつ現れたのは、「ひるまもち」と滑稽な人形の「よねぼう」。
よねぼうはどうやら巨大な男根を付けている模様。
人垣が二手に分かれ、もがりまでの道を踊りながらやってくる。
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その後、「獅子」、「駒」、「太郎次」と「安女」の夫婦、「破魔矢」と続く。
安女は妊婦姿。太郎次と抱き合う仕草をして、腰を振って五穀豊穣を祈る。
これらの演目は、男女の交合が稲の豊作を促すという、古代の感染呪術的な信仰の名残だという。
観客は大喝采。演者と観客との即興のやりとりも楽しい。
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舞台がもがりに戻ると、田の草をとり、田廻り、稲刈りと歌につれて所作が続く。
最後は田遊びの道具一式を太鼓の上に積み上げて、豊作を言祝ぐ。
手打ちをして、終了となる。
 よう、よなんぞうどの、よう
 稲むらつませたもう つみ候 (中略)
 徳丸おとな若い衆は、稲むらにかきをして、
 ねまつて目出度候
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田遊びが終り、駅へと向かう道で、今年は満月に近い月が夜空に出ていた。
昨年は三日月。どちらも美しい月である。
「よう よなんぞうどの よう」という呼びかけの声がいつまでも耳の底に残った。

田遊びやデジカメで追う暴れ馬          上河内岳夫
田遊びの獅子に噛まれてゐたるかな       青木華子
獅子役は校長先生かも知れず           四宮暁子
三日月は空の果(はたて)に御田祭        青木華子
田遊びの終りし冷えののぼり来る         青木華子
田遊びを終へて大きな月仰ぐ            芹沢 芹

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                     文・写真/武井 伸子
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by basyou-ninin | 2009-02-11 18:00
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