青梅吟行

吟行燦燦 第十回

  青梅吟行                     

        九月二十日
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 台風一過の一日、青梅吟行の行く先は
釜の淵公園である。岩淵喜代子先生以下、武井伸子、上田禎子、そして案内役の長嶺千晶が、青梅駅改札に十一時に集合した。
 まずは腹ごしらえを兼ねて、青梅市立美術館の喫茶店に立ち寄る。青梅駅からだらだらと道を曲がりながら下ってゆくと、千ヶ瀬バイパスに面して美術館が建っている。小島善太郎の油絵と、現代版画作品を中心としたコレクションで、池田満寿夫の版画などがあり、すでに懐かしい感じがする。建物はたいそう立派である。また、喫茶店は別棟になっているので、外から直接入ることができる。
 道々酔芙蓉の大きな木があり、白い花が野分晴れの青空に映ってとても美しかった。

   隆々と雲のゆくなり白芙蓉    伸子 

 ビーフシチューセット(1,260円)、カレーライスなどでお腹を満たして、いざ出発。この美術館の裏手にはすでに多摩川が流れており、釜の淵公園はその一角にある。
 もともと釜の淵とは、水底が深く、流れがゆるやかなところの意で、ここで多摩川が大きく、ほぼ90度、湾曲している。昨日、台風が過ぎたのにもかかわらず水の色は翠を帯びて美しい。

   秋光に架橋のはがね鮎の竿    禎子
   釣人の腰をあをあを秋の水     伸子
   釣糸を水さらひゆく天高し      千晶

 鋼鉄製の柳淵橋を渡ると、「河原にて白桃剥けば水過ぎゆく 森澄雄」の名句を思い起こさせるような、河原の風情である。河原へ降りてゆくと、鮎釣りの人が七、八名ほど、竿を立てたまま微動だにしない。今は落ち鮎のシーズンで、竿を下ろしておけば、日に十匹は釣れるという。写真のように三十センチにも及ぶ、まるで、ニジマスのような鮎が釣れていた。昔は大岩の影に雌鮎が集まるので、それを追って雄鮎が群れをなし、五十匹以上も集まったものだという。

   錆鮎の目の美しと少女言ふ     禎子
   落鮎の掌にひくひくと脈搏てり    伸子
   落鮎のざらざらとして掌にはねる  禎子

 釣り上げた落ち鮎を触らせてもらった実感の句である。そこここで、鮎を焼く煙が立ち上り、石を積み上げて炉にしては、バーベキューを楽しんでいる家族もあった。

  男きて火熾す河原いわし雲      伸子 
  石三つ寄せて炉となす新酒かな   喜代子

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 河原を楽しんでるのは人間ばかりではない。

  柴犬の浅瀬蹴散らす鱗雲     伸子
  流木を咥えし犬や出水川      千晶

 飼い主のご夫婦に連れられてきた犬が、ご主人が投げた流木を受け止めようと、水にはいっては、咥えてきて、また投げてもらっては、水を蹴散らして、と遊んでもらっていた。最後に流木を流れの中に見つけられずに、しょんぼりと岸へあがってきたのは、見ていてかわいそうなくらいだった。

真ん中に犬坐す夫婦秋深し    千晶                                  子らの声間遠になりて法師蝉   伸子
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 大気の爽やかさは、水辺にまさるものはない。河原から上がって、深い木立の中をはいってゆくと、水引草の紅、曼珠沙華の赤が暗い森の闇に、発光するようだ。

  曼珠沙華川音の中川流れ      喜代子
  ゆっくりと歩めば無音曼珠沙華   喜代子
  曼珠沙華過ぎゆく水をまなうらに  千晶

 木立の中には宮崎家住宅という移築した古民家をがあり、そこは藁屋根のために、毎日、囲炉裏をたいているという。縁先で休ませてもらうのにちょうど良い場所である。その眼下を多摩川が流れてゆくのである。そこには、鮎美橋という鋼鉄製の真白な吊り橋がかかっているのも景観を作っている。古民家の隣には、郷土博物館が建っている。すべて無料で見学できる。


  掌中に石文ぬくむ素秋かな     喜代子

 柳淵橋のたもとには、亜陶(あど)という喫茶店がある。あらかじめ頼んでおいたので、
2階のギャラリーになっている部屋を使わせてくれた。ケーキセット(650円)を皆で取る。ここが、今日の句会場である。お店のご厚意で、ファックスのコピーを使わせていただいたので、十句出しの吟行句と、五句出しの題詠句の二回の句会がほぼ、二時間でできた。題詠の題は次のとおりである。
「時・白・がたがた・落・離」

  離れては寄り合ふカヌーの黄と赤と    喜代子
  野分晴れカヌー落ちゆく水迅し       千晶
  落鮎の顎尖りたる真昼かな         伸子
  流木になるまでの時鳥渡る         禎子
  月射すや水離れたる流木に        千晶
  がたがたの木の椅子に降る水木の実   禎子
  どんぐりの踏みしだかるる白さかな    千晶
  川音の時浸しゆく曼珠沙華         伸子

 折から、カヌーの練習も始まって、川音にも活気がみなぎってきた。四時頃、川を後にして、坂を上りきった、「大柳」のバス停で、二駅ほどバスにのり、青梅駅に到着した。自然に触れ合えた、心やすらぐ吟行会であった。           (長嶺千晶記)
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by basyou-ninin | 2008-09-20 16:19
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