近江吟行

近江といえば芭蕉である。三井寺、石山寺、幻住庵、岩間寺、義仲寺と芭蕉ゆかりの寺を訪ね歩いた。

6月25日(月曜日)
今回の一番の目的は三井寺(園城寺)の拝観である。京阪三井寺駅から琵琶湖疏水に沿って歩く。
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古い町らしい家並みへ曲がり、大津絵の店で掛け軸、団扇、風呂敷、一筆箋などに鬼、藤娘などの絵を楽しむ。
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三井寺ご出身の、柿本多映さんが待っている仁王門を探して、しばらく万緑の生垣に沿って歩く。反対側には団地などがあり窓に傘を干している。
片蔭をひろい大津絵の鬼に会ふ          恭子
枇杷の実を落ちるにまかせゐる真昼       喜代子
仁王門に着きようやくお会いできる。三井寺でお育ちになった柿本さんによると、昔は狸や鼬がいたそうである。森林浴している気分になる。
三井寺の門くぐらばや青葉風           竹野子
遥かより来て親しさや夏蓬             千晶
普通では見ることのできない国宝の光浄院客殿へ案内してくださり、甥御さまの説明を聞く。ときどき蛙の声が混じる。
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涼しさや香炉ひとつが違ひ棚           千晶
襖絵の墨の流るる兜虫              喜代子
黴もまた史蹟に生きて武者隠し          恭子
お庭は高い夏の木々に囲まれていて、あちらこちらに今にも落ちそうな泡の塊が池の水面へたれさがっている。お庭も池が広縁の真下まできていて客殿と一体化した構成。
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古池や森青蛙卵生む                竹野子
光浄院から境内を案内してくださる、すたすたとゆく柿本さんの足について行くのが結構大変であった。下の写真は閼伽井屋でぼこぼこと千年以上前から湧き続けている。
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堆き時の音する涌井かな               紀子
地の声となりて噴きつぐ岩清水            和代
閼伽井屋の真清水が音胸を打つ          恵子
突然孔雀の声が聞こえた。境内で飼っているとのこと。
緑陰に愛を求める孔雀かな            竹野子
有名な三井寺の晩鐘を誰かが撞いてみたけれど、弱い音だったので、柿本さんがお手本を示してくださった。みんな一打ずつ撞いたがそれぞれに強弱があった。名鐘だけあって音色は良かった?ようである。
三井寺の鐘つく夏帽小さく折り            恭子
湖を来て三井晩鐘の深みどり           喜代子
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鐘楼から大師堂、三重塔、そして深い木立の中を鶯や三光鳥など鳥の声を聞きつつ観音堂まで行き、そこから琵琶湖を眺める。ただ、口惜しいことに湖畔にマンションがたち、景観を妨げている。
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涼しさや天地をとほす杉木立            千晶

鳴き声は眼抜きの竜か青葉闇          竹野子
青梅雨や千年回す摩尼車              和代
男梅雨晴れて女坂を降りにけり         竹野子
観音の目つむりて聞く三光鳥            恭子
手ぬぐいに三井の染め抜き五月雨るる      和代
三井寺を出づればこの世沙羅の花         紀子
三光鳥座れば風が顔にくる            喜代子
山門に虫食いの跡青時雨             禎子
下の写真の観月の舞台からは比良、鈴鹿連峰が望めるそうである。
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入口近くの売店まで戻り、しばらく休憩をする。飴氷を飲んだりする。
柿本さんとこちらでお別れをする。尊い仏様などを拝まさせていただき、有り難き午後であった。別所駅まで車を手配してくださり、すっかりお世話になってしまった。
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柿本多映さんは「俳句研究」7月号に「現代俳人の貌4」として特集されている方である。代表句の一つは
馬を見よ炎暑の馬の影を見よ          柿本多映
宿泊の石山寺で下車をした。瀬田川に面している宿であった。
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瀬田川の一の唐橋夏の雨            恵子
唐橋を遥かに梅雨の傘ひらく          竹野子
夕飯は近江牛、鮎の塩焼き、湯葉のあえものなど地のものが用意され、お腹一杯いただいた。そして句会、寝たのは11時過ぎだったろう。早朝の新幹線からの長い一日であった。
鮎の宿淡海の風を通しけり            恭子
鮎の腸苦きも楽し淡海かな            禎子
一夜さの一幕かべを這ふ百足          竹野子

6月26日(火曜日)
早朝の瀬田川ではボートの練習をしていた。
宿から石山寺へ7-8分の距離である。途中、菩提樹の花が満開であった。
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菩提樹の花仏は剣手に持ちて           禎子
石山の石である。周囲の木々の緑が映えて美しい。どこか神秘的な感じもする。天延記念物。
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工事中の山門から緑ゆたかな境内に入る。石山寺は紫式部が源氏物語の想を得たところとしても有名である。紫式部展が開かれてをり、見るのを楽しみにしてきたのであった。九時前の境内では夏落葉などを掃いている清掃の人たちに出会う。梅雨茸があちこちに生えている。
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本堂、鐘楼、芭蕉庵、式部の像を見て、10時前には展覧会場に着く。早かったが入れてもらう。源氏物語絵巻、屏風、貝合わせ、芭蕉の自画賛などが展示されていた。芭蕉は石山寺に2-3回来ている。写真は芭蕉庵と月見亭でる。
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常の目を離れし石山寺涼し            恭子
石山のこれはとばかり青蜥蜴          竹野子
涼やかに胎内仏の佇みぬ             禎子
紫式部見舞ふ蛍が火灯窓             恵子
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未央柳反り屋根美しき多宝塔          千晶
夏うぐいす一字写経に切を書く          紀子
梅雨茸の朱の散らばれる恋の道       禎子
極楽のとなり地獄や蜘蛛の糸           竹野子
もとのやうに御籤を畳む濃紫陽花        喜代子
石山寺駅へ戻り、電車で石山へ。こちらになじみのないものには駅の名がややっこしい。バスで幻住庵へ。芭蕉が滞在して「幻住庵記」を書いたところである。小さい鳥居をくぐり、上り道の子供達の短冊を読みつつ庵の下までゆく。幻住庵記の陶板があった。庵まで可愛らしい階段をのぼり、庵へゆくと、訪れている人もいて、庵主は忙しくしていた。庵は二間ほどであった。
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老鶯や幻住庵記読み耽り             竹野子
とほきこゑ幻住庵の青葉闇           紀子
幻住庵趾茂りにまかす木立かな         禎子
幻住庵から芭蕉の汲んだ泉へ下りる。道のところどころに俳句が電灯に書かれていて、泉は今でも湧いている。
とくとくの泉に冷やす石工鑿            恵子
もてなしの蚊にあづかりし指の先      紀子
折角来たのだからと幻住庵からタクシーで岩間の寺へ。青田を遠近に見ながら山を上っていく。家々の軒先には玉ねぎが吊るされている。寺は紫陽花が迎えてくれ、芭蕉の「古池の」の句が生まれたという池があった。背景は夏山である。山奥なので人が来ないと思ったが、意外にも来ている。バス停から40分もあるところである。
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国分山その奥岩間ほととぎす          竹野子
あぢさゐの鞠の上なる岩間寺          紀子
鳴き切って老鶯消ゆる岩間寺           恭子
岩間寺から唐橋へ向かう。タクシーに待っててもらい、下車して唐橋を眺める。
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唐橋から義仲庵へ。実は前日に立ち寄ったのだが、月曜日とて門が閉まっていた。今日は開いていて中はこじんまりとして芭蕉の葉があおあおと靡いている。
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義仲寺に名前呼ばれてゐたりけり        喜代子
芭蕉塚蛙の交る真昼かな             千晶
木下闇翁安んじ眠りをり              禎子
蕉翁の文字の傾く半夏生             紀子
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義仲庵の受付で其角の「終焉記」を買い、膳所の駅まで徒歩で戻った。
膳所の僧白緒白足袋白日傘           恵子
膳所の駅へ出て吟行は終わった。分かれたあとに唐崎へ回った方もいた。
青梅雨支ふ唐崎の松三代目           恵子
大津をめぐりきて
汗にじむ大津に多し翁の跡            恵子
以上がににんの二日間の吟行であった。念願の近江に来ることができて幸せな時間であった。
夏落葉過去つみ重ねつみ重ね          恭子
                
                         写真・文・上田禎子
 
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by basyou-ninin | 2007-10-20 16:26 | 吟行
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