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河内音頭盆踊り

         錦糸町・河内音頭盆踊り     2014.8.27

8月も終ろうとしている27日、JR錦糸町駅・南口に降り立った。
2日間にわたる河内音頭盆踊りの初日だ。
雨をふくんだ夕空はまだ持ちこたえていた。
身の回りをうすうすと秋の気配がすり抜けていく。

吟行参加者が揃ったところで、堅川親水公園の特設会場へと動き出す。
その途端、小雨が降り始めた。会場へは徒歩五分の距離。
マルイの脇道を入る。
赤い提灯が点され、それが小雨に濡れている。
提灯が盆踊り開場への道案内だ。

ちようちんに誘はれて行く盆踊り   宮崎晩菊 

首都高速7号線高架下が盆踊り開場だ。
高架が屋根の代わりをしてくれて、雨天決行。
開場に近づくと、河内音頭が聞こえてくる。 
午後5時半開演、終演は9時だという。
すでに踊りの輪ができていて、入口とは反対方向に舞台が組まれている。
ステージの背景には提灯が積み上げられ、遠く小さく見える舞台が、まばゆく輝いている。
そこから河内音頭が拡声器で広がっていく。
盆踊りのためのスペースは、ステージに向って縦方向にぐいと伸びている。
踊りの輪を囲むように様々な屋台が並ぶ。

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立ち喰ひの耳に盆唄錦糸町   高橋寛治

踊る人がいれば、踊らない人もいる。
踊らない人たちは、舞台下で音頭取りの声に聞き入ったり、
立ち食いを楽しんだり、屋台のテーブルに張り付いていたりする。

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音頭取り歌手のごとくに唄ひけり   小関人志

蚊に食はれ眺むるだけの踊りかな     矢野 輝

大男恥ぢて踊りの輪に入らず       佛川布村
 

河内音頭は大阪府八尾市を中心に河内地方で唄われてきた盆踊唄。
8月になると、河内ではあちこちに櫓が立つという。
櫓には音頭取りと伴奏者が上り、太鼓、三味線、エレキギター、ときにはシンセサイダーなども使われる。
かつて農村地帯であった河内では、野趣に富んだ唄と踊りが、大事に伝えられてきた。
唄い継がれてきた音頭には、新たな工夫が取り込まれつつ、芸能の本来の荒々しさが息づいているといわれている。

「ええ、さあては一座の皆様へ ちょいと出ましたわたくしは お見掛け通りの若輩で ヨーホーホーイホイ ハァーイヤコラセー ドッコイセー」

音頭取りはまず、一座の皆様へ挨拶をして、それからマクラ。
その後本題に入り、物語を紡いでいく。
最後は「皆々さまの御健勝と久しき幸せを祈りながら、さようなら」となる。

錦糸町にはじめて河内音頭を招いたのは1982年、ダービー通り神社前の「銀星劇場」が初演だったという。
1985年に東京初櫓。今年、2014年は33回になる。

7時を過ぎると、人がどんどん増えてきて、舞台下で音頭に聴き入っている人たちも、隙間なく座り込んでいる。
五月家菊若の「紀ノ国屋文左衛門」、五月家一若の「瞼の母」などを、舞台下に陣取ってじっくりと聴く。
会場が混みあってくると、踊り手同士の距離も近くなってくる。隙間があまりない。
いっせいに音頭に乗って揺れながら、腰を振って踊る。
この独特の腰のひねり、揺れになんともいえない味がある。
河内音頭の踊りは、語義は不明ながら、通称「マメカチ」と言われているそうだ。
身体能力の高い踊り手は上下、前後に思い切り跳ねる。移動の所作がダイナミックだ。

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地を蹴るように跳ねて、生き生きと身体を弾ませている。
踊り手の躍動を見ていると、こちらにまでそのスイング感が伝わってきて、身体のどこかが動いてしまう。
車椅子のお婆さんの手と足が、ほんのすこしだけ動いているのを見て、有無を言わせない河内音頭の力を感じた。
踊りの輪の浮き沈みが大きなうねりとなって、錦糸町高架下をエネルギーの坩堝にする。ここにある熱気はなんだろう。
踊りの輪の大きなうねりに身を任せながら、陶然とたゆたっている気になる。

この日、踊り手の仮装がなんともおもしろかった。
AKB48のようなフリルがいっぱいついたドレスは、年配のご婦人たちがお召しになっていた。頭に光る被り物を載せたり、猫耳をつけていたり、天狗のお面をつけた男性もいた。
中世の風流を思わせる仮装である。

河内より闇連れ来たる盆踊   武井伸子

踊手のひとかたまりの鴉めく    岩淵喜代子


河内音頭に乗って、河内の闇がひたひたと、もうそこまで押し寄せて来ている気がする。
踊の輪はそれを取り込みながら、夜をうねっていく。

踊りのほとぼりの醒めない内に、駅ビルのレストランの一角で、句会。
別行動をなさった方々は、いささかきこしめし、河内音頭の夜を満喫なさったようであった。
 
踊り終へて赤提灯になだれ込む 村松 健


                 文・写真/武井 伸子
by basyou-ninin | 2014-08-27 18:00 | 俳句
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